エッセイ

廸薫の「タカラジェンヌが日本舞踊家になったわけ」

2008年 平河総合戦略研究所メルマガ 甦れ美しい日本 連載記事より

其の一 「着物と美しい所作のお話」

「宝塚」・・・と言うと、男装の麗人が大きな羽を背負って、華やかなライトを浴び、歌ったり踊ったりしながら大階段を颯爽と降りて来る姿を、イメージされる方も少なくないと思いますが、 何を隠そうこの私めもご多分に漏れず、在団中には三千人劇場と言われる大劇場に立ち、オーケストラの奏でる洋楽に合わせ、洋舞と言われる類の踊りを披露しておりました。
しかも男役も女役も経験したという変り種。
また、宝塚では「日本物」と呼ばれる、着物を着て日本舞踊らしき踊りを踊るショーも有るには有ったのですが、今思えば日本舞踊とは程遠いものでした。 そんな私が何故日本舞踊家に・・・? 続きを読む

其の二 「所作と心は表裏一体のお話」

25ans<ヴァンサンカン>12月号(407ページ左上)に、小っちゃ~くですが私のコメントが掲載されています。編集者の方が小さな記事ですが・・・とおってしゃっていましたが、 本当にここまで小さいとは正直思いませんでした。でもちゃんと写真も載っていますので、書店で立ち見・・・いや、良かったら購入してくださいませ。(編集者の方ゴメンなさい)
なんで、25ans<ヴァンサンカン>のような西洋趣向の権化(重ね重ね編集者の方ゴメンなさい)のような雑誌に、日本文化を連呼している私が 小さいながらも載ったのか不思議に思う方もいらっしゃると思いますが、実はある方を通じて一ヶ月程前でしたか取材を受け、最近25ans<ヴァンサンカン>の読者達が、 自分たちの有り方に疑問を感じ始めているのだという興味深~いお話を伺いました。 続きを読む

其の三 「働くは“傍を楽にする”のお話」

先日、「江戸文化歴史検定試験」を受けて来ました。去年から始まって今年で二回目のまだ歴史の浅い検定試験ですが、3級、2級、1級と有り、今回私は入門編の3級を受験致しました。
結果は惨敗。前年度に出題されていた設問が余りにも安易で、正解率70%が合格ラインなら楽勝と高を括っていたのですが、当日配られた問題を見て愕然・・・。こんなん知らん・・・。
今まで培ってきた知識と推理力を持ってしても、箸にも棒にも掛からない問題のオンパレードで、尻尾を巻いて出直してきます・・・といった感じでございました。我ながら情けない。

さて、以前から私は明治時代の「文明開化」は「文明退化」だったと思っており、敗戦をした日本が教育までも自国の思想を捨て去ったところから、 本当の意味で日本文化の衰退が始まったと思っておりますが、其の中でも特に問題だと感じるのは、昔の日本国民が当然の事の様に持っていた、今思えば何と奥床しく美しいと思える 心の在り方がすっかり忘れられていることです。 続きを読む

其の四 「一流が壊れていく・・・!のお話」

先週、ある朝目覚めたと同時に「あっ!締め切り日!」と突然思い出し、と同時に携帯が鳴ったかと思ったら「今週はお休みですかぁ?」と確認のお電話でした。
何曜日かも分からないまま日々が過ぎ去って行っているなんて、何でこんなに時間に余裕の無い生活をしているのかと思う今日この頃ですが、毎年年末が近づくと何故か世間も慌ただしい。

さてそんな中、先日から「雪印」「不二家」「白い恋人」に始まり「比内地鶏」の偽装が発覚し、続いて「赤福」の偽装が発覚。「比内地鶏」以前の事件とは異なり、 伊勢神宮ゆかりの歴史の古い銘菓だけに、これだけでもかなりのショックを受けたものの、極めつけは一流中の一流「吉兆」の偽装発覚事件。ああ~、日本はここまで来てしまったのか・・・。
日本の伝統食文化を守るべく日々研鑽を重ねているであろうはずの名料亭が、自らその伝統を汚すような事をしているなんて。日本はどうしてしまったのでしょう。 続きを読む

其の五 「何ぼでも迷惑かけていいんやで・・・のお話」

今年も後僅かとなりました。
先日、千葉県印西市でのワークショップも無事終わり、あとは連日の忘年会が待っている年の瀬でございます。

さて、年末恒例「今年の漢字」が12日、京都清水寺で発表されましたが、何と今年の世相を表す漢字は「偽」・・・。
はがきやインターネットで寄せられた9万816通のうち、約18%の1万6550通が「偽」に集中したそうです。
多くの方々が、今年世の中で起きた様々な「嘘」や「偽り」に失望や怒りを感じた年であったと言わざるを得ませんが、まるでパンドラーの箱を開けたが如くこれでもかこれでもかと、 うんざりするほど、続けさまに「偽」溢れ出し、留めの字が「偽」では本当に救いが無い。 続きを読む

其の六 「日本舞踊は洒落の世界・・・のお話」

何かと気忙しくなって参りました年の瀬ではございますが、皆様如何お過ごしですか?私は先日、今年最後の講演会と稽古を済ませ、後は忘年会をこなすのみの年末となりました。 今年は何故か事のほか忘年会のお誘いが多く、生まれて始めて乾杯の発声をするという経験も致しました。

さて、今回のお話は日本舞踊の歌詞に焦点を合わせてみたいと思います。この間ある方が稽古場に私達の稽古を見学に来て、「日本舞踊って、歌詞の通りに踊ってるんですね。始めて知りました。」 とおっしゃっていましたが、現実には歌詞の意味が理解出来なかったり聞き取れなかったりして、目に映る踊りの動きだけに気を取られるのが現状かも知れません。 続きを読む

其の七 「和とは何ぞや・・・のお話」

「和」とは何ぞや・・・、という事を研究している方がいらっしゃるというお話しを、以前伺ったことがありました。結果から申し上げますと「和」は物では無いという事に辿り着いたそうですが、 それはどういうことなのでしょうか?
つまり茶碗や棗が台所に只漠然と置いてあるだけではそれは「和」とは言えず、茶碗や棗が茶碗や棗として置いてあるに相応しい場所や空間に存在するという事が「和」という雰囲気を醸し出す。
この「雰囲気」とか「空気」とか「空間」が「和」なのだということです。茶碗や棗の場合、お茶室の空間で丁寧に扱われてこそ、その物の持つ本来のオーラが出て来ますが、 台所に転がっている様な状態では、只の湯呑み茶碗と変わらなくなってしまいます。 続きを読む

其の八 「温故知新・・・のお話」

最近テレビを見ていると、気のせいか時期的なものなのか、古代文明の謎や歴史を探るという様な特別番組が多いような気が致します。
何を隠そうこの私めも中学生の頃、将来は考古学者か作家か舞踊家という欲張りな夢があり、その頃は特に古代から平安時代までの歴史に深く興味を持っておりました。 クラブ活動も社会研究部などというマニアックな部に所属して、夏休みの自由研究に縄文・弥生時代の遺跡めぐり、奈良飛鳥路の探索などしていたこともあるので、元来非常に興味の有る分野ですので、 ついつい見入ってしまいます。
しかしながらその後の戦国時代に突入すると、その時代を形成する「争う意義」「男のロマン」的な思考が根本的に理解出来ず、途端にテストの点が悪くなった為 「何か悩みでも有るのか?」と歴史担当の先生に大変ご心配をお掛けした・・・なんて事もありました。 続きを読む

其の九 「江戸時代のエコ・・・のお話」

私が宝塚を辞めた幾つかの理由の1つに、物や人に対する「感謝」の気持ちが、知らず知らずのうちに慣れになっていく怖さを感じたと言う事が有ります。
タカラジェンヌというだけで、周りは理由も無くちやほやして呉れます。特にかの有名なベルばらブームの熱がまだ冷めやらぬ時期でしたので、音楽学校の一年目(予科生)の時からマスコミ等にも注目され、 舞台にも立たないその頃から、青田買いのファンがいたりしました。思春期真っ只中の多感な時期、同期生でも特に地方出身の純真無垢な性格の持ち主は、音楽学校二年目(本科生)を迎えると この世界独特の影響を大きく受け外見も内面もまるで別人の様に変貌を遂げている者もいました。 続きを読む

其の十 「お稽古・・・のお話」

小春日と冬日がランダムに訪れている今日この頃。皆様にはお変わりなくお過ごしでしょうか?
先日、電車に乗っていてこんなことがございました。何気なく乗り合わせた場所が、何とウォークマン等で聞いている音楽の音漏れ洪水状態のまん真ん中でした。 左右サンドイッチ状態で、しかも今までに無く半端でないくらいの音量が漏れておりました。 続きを読む

其の十一 「美しい所作・・・のお話」

今月から、「目指せ平成見返り美人!!★美しい所作と着付けのコツ講座★」をはじめました。日本は今や「和ブーム」「着物ブーム」で、以前に比べるとうんと和服姿の女性を、 あちらこちらで見掛けることが多くなりました。ですがその姿を見て「残念!!」と思うことが度々・・・。
実際身近な方からも「着物は好きなんだけど、自己流なので奇麗な着方が分からない」とか、「どうやって動いたら良いのか分からない」等の声を聞き、 よし、それでは舞踊家ならではの、舞踊家しか知らない、着物好きの為の美しい所作や着付けのコツをお伝えする事の出来る講座を開こうと思い立った次第です。 続きを読む

其の十二 「夢・・・のお話」

今月から、始まった「目指せ平成見返り美人!!★美しい所作と着付けのコツ講座★」は、お陰様を持ちましてなかなか好調です。「平成見返り美人」目指して、皆で楽しく奮闘しております。 美しくなる為の努力って大変だけど、目指すところが「美」なので、女性にとっては努力のし甲斐のある部分。半年後、一年後がとても楽しみです。

さて、最近少子化の煽りを受けて、廃校を余儀なくされる学校も都市や地方に限らず少なくないという事ですが、その廃校を日本文化の為の施設にしようという動きが出ているようです。 続きを読む

其の十三 「今更ながら日本文化・・・のお話」

ここ2,3日吹き荒れている風も、何処と無く春の気配を感じる柔らかな風になって参りました。
以前、調度今の時期に山間で、うぐいすが啼く練習をしているのに偶然居合わせた事がありました。うぐいすは最初から「ホーホケキョ」と普通に啼くと思っていたので、 最初耳に飛び込んできた「ホケ・・、ホケ・・」と苦しげに啼いている鳥がうぐいすだとは全く気が付きませんでした。ところが暫く耳を傾けていると「ホケ・・・、ホケ・・、ホケキョ・・・」と 進化しだしたので、あ~、うぐいすなんだと気が付き、その「あれっ、上手くなけないなぁ。どうだっけ?よ~し!もう一回」とでも言ってそうなその滑稽な愛らしさに思わず微笑んでしまいました。 続きを読む

其の十四 「名前の重さ・・・のお話」

歌舞伎の演目「傾城反魂香(けいせいはんごう)」の一場面で「浮世又平」通称「吃又」(どもまた)といわれているお話しがあります。
江戸時代1654年(承応3)、宮廷の絵所預となり、大和絵の主流だった土佐派を再興。狩野派と対抗した土佐光起という絵師が、そのモデルといわれていますが、 どんなお話しか参考までにあらすじを引用したいと思います。

<参 考>
「傾城反魂香(けいせいはんごう)吃又」あらすじ
大和絵の一派である土佐派の総帥土佐将監光信の家に、近郷の百姓たちが押し寄せてくるところから話しが始まる。 続きを読む

其の十五 「雨の名前・・・のお話」

今日は朝から雨が降っています。冬の雨とは明らかに異なる柔らかな温かみを感じさせる春の雨です。このような雨を花や木の生育をうながす春の雨、「催花雨(さいかう)」、 「養花雨(ようかう)」等と呼ぶそうですが、この雨が柔らかな新芽を芽吹かせ、桜をはじめ美しい春の花々を開花させるのですね。聞いただけで春を間近に感じることが出来る情緒溢れる呼び名です。
このように雨をひとつ取っても季節感の有る美しい名前を持つのは日本の文化、感性の素晴らしい部分だと感じずにはいられません。 続きを読む

其の十六 「着物の合わせ・・・のお話」

桜の季節が過ぎ、青葉の美しい季節になりました。
良い季節なのにも係わらず、桜の時期のテンションが高すぎるせいか桜が散ってしまうのと同時に毎年この時期は暫くテンションが上がりません。困ったものです・・・。
ところで、日々日本伝統文化に近いところで生活をしていても今更・・・、というようなタイミングで改めて疑問に思ったり、真実に気が付いたりすることが往々にして 有るのですが、今年に入って「着付けと所作」の講座を定期的に開催していることによって、殆ど毎日身につけている着物に関して色々と気付かされる事が有りました。 続きを読む

Page Top