エッセイ

廸薫の「タカラジェンヌが日本舞踊家になったわけ」

其の八「温故知新・・・のお話」

最近テレビを見ていると、気のせいか時期的なものなのか、古代文明の謎や歴史を探るという様な特別番組が多いような気が致します。
何を隠そうこの私めも中学生の頃、将来は考古学者か作家か舞踊家という欲張りな夢があり、その頃は特に古代から平安時代までの歴史に深く興味を持っておりました。 クラブ活動も社会研究部などというマニアックな部に所属して、夏休みの自由研究に縄文・弥生時代の遺跡めぐり、奈良飛鳥路の探索などしていたこともあるので、 元来非常に興味の有る分野ですので、ついつい見入ってしまいます。

しかしながらその後の戦国時代に突入すると、その時代を形成する「争う意義」「男のロマン」的な思考が根本的に理解出来ず、途端にテストの点が悪くなった為 「何か悩みでも有るのか?」と歴史担当の先生に大変ご心配をお掛けした・・・なんて事もありました。その頃から私の興味の対象は非常に偏っていたのかも知れません。 何せ私にとって日本の歴史は古代から平安時代、そこから江戸時代まで無いも同然。白状しちゃうと、誰が誰を攻めていたのか、未だに良く理解出来ていません。 織田信長の家来が藤吉郎だった事や明智光秀に本能寺で暗殺されたこと位は知っていますけどね。

閑話休題・・・。さて、近畿や静岡あたりの遺跡を見て、中学生の私の印象に深く残ったのは、古代人達の理にかなった感覚、感性の瑞々しさであり、 創意工夫の柔軟さでした。状況に応じその判断は動物的な本能がそうさせたとしか思えないのに、結果的に後の世に大きな貢献をもたらす、素晴らしい発見を 数多く残しているのです。生きていく為の道具さえも無から発明してしまう私達の祖先の創造品の中には、何の為に造ったのかさえ解らない、 しかし大自然の中に泰然自若と存在するものさえも残しているのです。
これは日本に限らず、世界中の文明が栄えた国には今の科学をもってしても解明することの出来ない謎の1つや2つはあり、 わからない事は「宇宙人の仕業としておけば間違いない」説を有力視していたりするのですが、ここで私はハタと思い当たったのです。

私達現代人は根本的な考え方に間違いを起こしているのではないでしょうか?
例えば、幼い子供が百人一首を完全に覚えてしまったり、歌を一回しか聴いていないのにそらで歌えてしまったりする事が有ります。 そして大人はそれに対して「凄いわね、まだ小さいのに。」とか「大人顔負けね。」などと褒めます。 でもそれは、子供より大人の方が優位だという考えが基本に有るので、そのような余裕のコメントになるわけです。が、実はそれは大きな錯覚で、 脳のまだ柔らかい子供の方が記憶力にかけては、大人より優位な立場にある事は、科学的にも証明されていることなのです。
それと同じで、「昔なのにどうやって・・・。」「今の科学でも解らないのに・・・。」と現代人が思うのは、その根底に科学の発達した今の時代のほうが、 昔に比べて優れているという思いが有るからではないのでしょうか?そしてその傲慢さゆえに今の時代の限界が有るのでは・・・?と。

もう1つ例え話を。ここに「はさみ」が有るとします。「はさみ」は物を切る道具です。使う人によっては人を傷つける道具、 又人によっては美しい切り紙を創り出す道具。人によって使い方は様々です。
そしてさらにもう1つ。あるスピーカーのメーカーは、最低2台、しかも左右対称に無ければバランスの良い音を聞くことの出来ない本来のスピーカーの定義を 根底から覆す、一台で部屋のどこに置いても、どこに居ても、どこから聞いてもバランスの良い音が聞けるスピーカーを、木と紙で創り出しました。 スピーカーの老舗メーカーがそのスピーカーを購入し、分解してその仕組みを解明しようとしたらしいのですが、同じものを作ることが出来なかったそうです。
そう・・・、「はさみ」を武器と捉える感性では、美しい切り紙を作ることは出来ないのですね。

世の中はすべてがデジタル化の傾向に傾いています。テレビにしてもカメラにしても音にしても、臨場感や、鮮明ですぐそばにそのものが有るように 技術を切磋琢磨しているのは、より自然に近づけようとしているわけで、結局究極デジタルの求めるものは実はアナログなんじゃないかと思ったりもします。
もうそろそろ科学の力が優位なのだという傲慢な勘違いに気付いても良い頃なのでは?と思います。謙虚にならなければ学んだとしても上辺だけで、 その奥に在る真実に気付くことは出来ません。私達の祖先が歩んできた道を、その感性を素直に謙虚に学び直し発想の転換をしていくこと、 これが今現代人に求められている本当の意味での「温故知新」ではないかと思うのです。

「温故知新」
〔論語(為政)〕昔の事を調べて、そこから新しい知識や見解を得ること。ふるきをたずねて新しきを知る。

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