エッセイ

廸薫の「タカラジェンヌが日本舞踊家になったわけ」

其の十一「美しい所作・・・のお話」

今月から、「目指せ平成見返り美人!!★ 美しい所作と着付けのコツ講座 ★ 」をはじめました。日本は今や「和ブーム」「着物ブーム」で、以前に比べるとうんと和服姿の女性を、あちらこちらで見掛けることが多くなりました。ですがその姿を見て「残念!!」と思うことが度々・・・。実際身近な方からも「着物は好きなんだけど、自己流なので奇麗な着方が分からない」とか、「どうやって動いたら良いのか分からない」等の声を聞き、よし、それでは舞踊家ならではの、舞踊家しか知らない、着物好きの為の美しい所作や着付けのコツをお伝えする事の出来る講座を開こうと思い立った次第です。着物に対する興味をお持ちの方が増えてくれば増えて来るほど、只着物を身体に巻きつけて仁王立ちしている我姿に、はたと疑問を持つ方も増えてくるはず・・・。きっとお役に立つと確信しているのです。

日本文化の「道」(どう)と名の付くものには本来「着物」を身に付けることが欠かせません。日本舞踊も大きな括りで「芸道」という「道」が付いています。「道」は日本人の精神の一番根っこの部分、核心の部分といえると思います。第二次世界大戦の時、美しい町並みや文化財を残す為に京都を爆撃しなかったアメリカ軍ですが、何と日本が敗戦すると、マッカーサー元帥はいの一番に「道」と名の付く日本文化を総て禁止したそうです。これって、凄くないですか?彼は日本の国の価値がどこに在り、その精神その物が宿るものを把握していたとしか思えません。

少し横道に逸れてしまいましたが、日本文化を本当に勉強したいと思ったらどうしても「着物」というアイテムを無視することは出来ないでしょう。ですので、当然と言えば当然ですが、洋服には無い、袖や裾、襟あわせ等の独特の美意識は、総ての「道」に必ず関わりを持つのです。

例えば「茶道」。袖の無い洋服でするのと、袖のある着物でするのとでは動きが全く変わってきます。
袖が邪魔にならないように、どのように腕を動かせ良いのか。
合わさった裾を割らないようにする為には、どのように立ち座りをしたり、歩いたりすれば良いのか。
襟元や帯を美しく保つにはどのようにすれば良いのか等々、これは、着方もさることながら「所作」と呼ばれる立ち振る舞いを知っているか、知らないか、出来ているか、いないかで、大きな差が出てくるのです。

「日本舞踊」というジャンルは、江戸時代に目覚しい発展を遂げた「歌舞伎」の中から、「舞」つまり踊りの部分だけが独立して出来たものです。今でこそ舞踊家と呼ばれる私共の祖先は、明治時代に「日本舞踊」というジャンルが確立されるまで、その「歌舞伎」の中で踊られる踊りの振付けや、所作の指導などをしていた一介の振付け家に過ぎなかったのです。でも、そのお陰で私達は大きな財産を相続することになりました。なぜなら「歌舞伎」は男性が女性を演じるという特殊な要素を持ちます。つまり男を女に見せる為、どうしたら「女らしく」「美しく」見えるのか、長い年月をかけて研究に研究を重ね、工夫を凝らし、女が女を演じるよりもさらに女らしく、美しく見えるテクニックを確立し今に伝えてくれたのです。

以前、私自身も余り意識していなかったのですが、お茶のお点前をしている時に先生から、 「やっぱり踊りをやっている人は違うわね。動きに極まりが有って奇麗ですね。」とお褒めの言葉を頂いた事がありました。

それから自分の動きを意識するようになったのですが、改めて意識してみると、その動きの基本の総ては「日本舞踊」の動きの中に有ったのです。 厳つい男性すら、たおやかな女性に見せてしまうテクニックこそが、その今回お伝えしたいと思っている「所作」なのです。 着崩れしない着物の着方は「着付けの仕方」という意味だけでは無く、着物に有った動き=「美しい所作」をマスターしてこそ身に付くものなのです。 一人でも多くの方にお伝えして、今の「着物ブーム」がブームに終わらず、本当の意味での日本文化再興に繋がればと、切に願っています。 是非一度覗きに来てください。

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